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ものづくりと環境をつなぐ次世代素材TABWD®

持続可能で豊かな未来に向けて、BEV(電動自動車)やHEV(ハイブリッド自動車)など自動車業界の脱炭素化は加速しています。
私たちトヨタ車体は環境に配慮したクルマの開発だけでなく、サスティナブル素材の開発を通じて、CO2削減・資源枯渇の問題に取り組んでいます。今回はTABWD®の魅力と価値について、開発者 三浦寿久さんに話を聞きました。

豊かな未来を育む新しいサイクル

― スギの繊維を素材に採用したきっかけを教えてください。

20250326-03_05トヨタ車体は完成車両メーカーとして率先して、環境にやさしい素材を使っていくべきだと考えています。化石燃料や金属などの資源枯渇への対策として植物素材を探っていた際に、国内で今なお多く放置されている森林に着目し、間伐材を活用できないかと考えました。放置された木々が過密になると日照不足で生態系も悪化しますし、痩せた土壌は土砂崩れの危険性も増します。森を健康に保つために間伐したくても、少子高齢化と人手不足で放置せざるを得ない地域も多いのが現実です。
国内で持て余しているスギに新しい価値を発見したら、ポジティブに間伐に取り組む流れが生まれるかもしれない。TABWD®は単に優れた材料というだけでなく、環境問題や災害予防に取り組む新しいサイクルとして、その製造プロセスにも大きな意義があります。

― CO2削減の取り組みも、私たちの課題ですよね。

スギの間伐材を活用することは、CO2削減にも大きく貢献します。木はCO2を吸収して育ちますよね。CO2を蓄えた木材をそのまま樹脂に固定することでCO2をダイレクトに削減する効果もあります。
サーキュラーエコノミーの取り組みとしても、TABWD®はリサイクル性に優れています。例えばGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)は再利用のために砕くと、繊維が砕けて強度が落ちてしまいます。でもTABWD®はしなやかなスギの繊維を利用しているので、粉砕しても繊維が残り、再利用が可能なんです。

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現在放置されているスギ林に価値を見出すきっかけ、CO2削減に貢献する製造プロセスと、TABWD®自体が無駄なく生まれ変わるサーキュラーエコノミーの循環。TABWD®はこの3つの点で、豊かな未来を育む新しい循環をつくっています。

木の良さを持つプラスチック

― 地球にも人にもやさしい材料なので、木の温もりも感じますね。

TABWD®はグレードによってスギ繊維の含有量を選ぶことができます。一般的なプラスチックの触感とは異なり、含有量が多いほど木の温もりを感じる質感が出てきます。木の風合いを見てとれるタイプや、植物由来のバイオプラスチックとスギ繊維を混ぜてつくる100%植物のTABWD®もあります。
また顔料を練り込んで、お好みの色に仕上げることができますし、無着色で、木そのままの色を生かすこともできます

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― TABWD®の用途が広がっていると聞きました。

温度や耐油性など木材では苦手な場面でも、木の温もりを持つ樹脂素材としてTABWD®が活躍できると思います。例えば食器や浴槽などの水回りでは、木材のようにカビが生えたり腐ったりという心配がありません。また現在のTABWD®はスギを使っていますが、サクラやブナやヒノキなども利用が可能です。
スギと言っても全国にさまざまな種類があって、密度などの違いから強度にも差が出るので、材木として使う場合は種類を気にする必要があります。しかしTABWD®はスギを細かくして使うので、全国どこのスギでも種類を問わずに使えるんですよ。地元の木を使いたいというご要望にも応えられます。

― 地元のスギを活用して、クルマが地産地消の製品に?

当社が開発した超小型BEVコムスにTABWD®を活用した「PLANT COM(プラン コム) もくまる・りょくまる」という新しい取り組みも、昨年から試験的に一部自治体でご利用いただいています。地元のスギを使ったクルマという地産地消はもちろん、ゼロカーボンシティの取り組みにも相性が良いと思います。

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木を超える頼もしさ、使いやすさ

― もくまる・りょくまる以外のクルマにも使われているんですか?

TABWD®が最初に採用されたのは自動車部品です。TABWD®の耐熱性の高さや、軽量化につながる点が認められ、ランプ周りの部品に採用されたほか、ワイヤーハーネスカバーやバッテリーキャリアなどにも使われた実績があります。自動車部品メーカーさんの品質条件に応えられるよう開発・品質管理を徹底したおかげで、今ではオフィスファニチャーやテーブルウェアの素材としても、安心してご採用いただいています。

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― 木材と比較するとどうですか?

先ほど挙げたように、木材よりも耐久性にすぐれており、加工性の良さもあります。例えば木材の場合は切削加工が必要ですが、TABWD®は射出成形や3Dプリンターでの出力も可能です。複雑な形をつくる場合には、木材よりも加工性が高いと言えますね。

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製造元:株式会社前田技研

― 環境にやさしく、人にも使いやすいTABWD®。次は何をつくりますか?

今もファニチャーやテーブルウェアなど、自社製品のカーボンニュートラルに取り組むメーカーや、地元のスギを活用したい自治体から、多くお問い合わせをいただいています。これからは例えば、やわらかい質感や透明性を高めたバージョンなど、バリエーションをさらに増やして、さまざまな業界で採用してもらえる素材に成長させたいですよね。

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